Lung Sound e-Learning System 目でみる肺聴診

波形と分析図(サウンドスペクトログラム:SSG)

 音(肺音)の波形からは音の長さや大きさなどの情報が容易に得られます。サウンドスペクトログラム(SSG:Sound Spectrogram)[文献3]と比較すると、波形情報は収録条件の良否の判定、即ち、肺音や雑音の大きさが許容範囲を超しているか否か、および、呼吸音の大きさの時間推移などを知るのに適しています。また、SSGはVisible Speechの名称[文献4]で、聾唖者のコミュニケーションツールとしても使用されてきたように、目でみるだけで音の諸々の性質(断続音なのか連続音なのか、大きさ、高さ、音色、およびこれらの時間推移)を知ることができます。

1 波形の特長

 音は縦波(粗密波)ですが、理解しやすいように横波で表わします。波形は音の強さと時間とを物理量として2次元で表わせるので、縦軸に音圧(デシベル:dB)を、横軸に時間(秒:sec)を割り当てて表します。
波形からは、「どの時刻に、どの程度の大きさの音が、どのくらい持続しているのか」を知ることができます。このことから、波形は呼吸音の長さや呼気と吸気の時間推移、過大入力音が生じたか否かを知ることができます。過大入力音が発生すると、肺音の聴き取りの際に音に歪みが生じ、雑音が混入した音を聴くことになります。そのような場合には環境雑音と同様、雑音部分を無視するか除外するかして、注意して聴いて下さい。
(例: 肺胞呼吸音のように小さな音を増幅して収録している際に、人が咳払いをしたり、聴診器が動いた場合などに過大入力音が生じることがあります。録音機器では、リミッターによって大きな音をピーククリップし、過大入力音が直接耳に聴こえないようにしていますが、その際、受聴音は原音と異なり歪んだ音になっています。)

2 分析図(サウンドスペクトログラム:SSG)の特長

 音の情報を表すのに大きさや時間に加え、周波数成分の情報も用いて3次元で表わせば、波形よりもより詳細な音の性質が分かります。そこで波形を数十~数百ミリ秒の単位で連続して分析し、周波数とその成分の強さとで表します。これをサウンドスペクトログラム(SSG:Sound Spectrogram)と呼び、横軸に時間(msec)を、縦軸に周波数(ヘルツ:Hz)を配置し、周波数ごとの音の強さを図5.1で示すような色彩で表わします。即ち、小さい方から大きい方へ:白→青→緑→黄→赤:の配色で表します。
SSGからは「どの時刻に、どの周波数成分の音が、どの程度の大きさで出現しているか」を知ることができます。このことから同種の音の継続時間や変化の速さ、周波数成分の大きさや高さ、音の性質を知る事ができ、肺音では連続音や断続音の違い、変化の様子などを見る事が出来ます。これらの事から私たちは、肺音をSSGで表す方法を「目でみる肺聴診」と名づけました。

3 サウンドスペクトログラム(SSG)による肺音の表現

SSGを見ながら肺音を確認する場合は、以下のことを考慮して読み取って下さい。
聴診音: 気道を通る空気の流速や流量、気道のかたち、狭窄部における乱流(呼吸音:摩擦音)の有無、振動(連続性ラ音:周期音)の有無、破裂(断続性ラ音:インパルス音)の有無などによって肺音は異なります。また、これらをつかさどる呼吸音は随意筋によって変化するので、被検者の意向や緊張の度合いなどによって大きく異なります注1)。聴診音をSSGで表現した場合、下記のような言葉を用いて表現します。
  • ・呼吸音(雑音、摩擦音):―> かすみ柄 ―> かすみ
  • ・連続性ラ音(周期音、振動音):―> 横の縞模様 ―> 横縞
  • ・断続性ラ音(インパルス音、破裂音):―> 縦の縞模様 ―> 縦縞
  • ・こすれ音:-> 規則性のある変化を持った縦の縞模様 ―> こすれ
(2)長さ: 音の聴こえる時間のことで、SSGでは音の情報が見える時間を表します。また呼気と吸気の長さの比を(L1:L2)で表します。
(3)大きさ: 音の大きさを色で表しています。小さい方から白→青→緑→黄→赤のグラデーションで音が大きくなることを表しており、肺音の中で最も大きな音の周波数帯を代表音と呼ぶことにします注2)。
(4)高さ: 肺の聴診音は2KHz以下の周波数帯域が大半を占めています。肺を取り囲む身体は、高い周波数成分を通さない低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)になっています。
(5)音色: かすみ①、横縞②、縦縞③、こすれ④、およびそれらを組み合わせた変化で表します。音の周波数スペクトルは肺音収録装置の周波数特性に大きく依存するので、ここでは主に前記の4項目(①~④)の違いで比較しています。
(6)時間推移: 前記(1)~(5)の変化に注目します。例えば、深呼吸の場合、呼吸の最初の数回は音が大きく、周波数も高く、かつ変動が大きい傾向にあります。そして、呼吸を継続すると、それらは安定し、一定の呼吸音に近づいて行きます注3)。
【注意事項】
注1:人によっては随意筋が緊張し、呼吸周期などが大きく変化します。
注2:肺音で横の縞模様(フォルマント*)の変化が現れるのは、①気道、および声道で共鳴が生じたとき、②電子聴診器の周波数特性お影響、③披検者の呼吸の仕方の影響したときなどです。(* フォルマント周波数:周波数スペクトルのエネルギーが強いところ。)